No.24 オートマの話【前編】

最終モデルでも製造から20年以上経っている立派なクラシックカ-【MINI】、その中でも故障すると大変な事になるオートマチックトランスミッション(以下略AT)を少しでも長く乗ってもらう為にこの記事が役立ってくれることを願います。 

オートマの話≪前編≫『無駄な変速やキックダウンを避け、Dに入れっぱなしにしない。』 

(あるスペシャリストからの手紙)

もう30年以上も前の話になります。当時ローバージャパンに勤務し、サービストレーニングを担当していた私は、カウレー工場の隅にあるトレーニングセンターを頻繁に訪れ、新型車や新しいメカニズムの解説を受けることが出来ました。

そして90年くらいだったと思います、エンジンが1.3インジェクションに代わり、そして急速に販売台数が増えたATについて学ぶ機会がありました。
 
排気量が1.3になったと共にラインプレッシャーが増し、クラッチ枚数を増やしてパワーアップに対応、そして北海道などで強く要望があったパーキングブレーキも装備されました。そのトレーニングコースで、ATについての解説文、それは開発・製造社であるAP社資料の一部に書かれていたのは…

『このオートマチックはフルオートで走ること も できます』

そう、このATは最近の良くできた国産車の様にいつでも”D”ではなく、その状況に応じた
ギヤを選択してあげる必要があるのです。
  
メカニズムに興味のない方には少し退屈な話かもしれません。そこで「長い文章読む気にならない」「読んでも解らなそう」という方には『無駄な変速やキックダウンを避け、Dに入れっぱなしにしない。』ぜひこれだけは意識して欲しいところです。
きっとあなたのAT寿命を延ばすことが出来る筈です。


 さて、ATの仕組みを説明する上で分かりやすいのがマニュアルトランスミッション(以下略MT)と比較していくことです。エンジンは基本的には同じ。MTではエンジン出力の断続をクラッチが担当します。これに対しATはトルクコンバーターがその仕事を受け持ちます。どちらも出力はトランスミッションに伝わります。

 MTの場合、出力は4組のギヤのどこから出力するかによって変速します。
一方、ATではプラネタリーギヤユニットに入ります。このユニットは油圧クラッチやブレーキバンドなどによってトルクの反力をケースが受け持ち、中心を回転するサンギヤ、その周囲を自転しながら公転するプラネタリーギヤ、そしてアニュラスギヤ(リングギヤ)の組み合わせにより4速のトランスミッションとなります。(D-4は全体が一つの塊になって回りプラネタリーギヤでの変速はありません。) 

 MTではシフトレバーから伸びたリンケージを介してシフトフォークがシンクロを移動して変速します。
ATではこの部分をフォワードとトップアンドリバース(以下T&R)の2つの油圧クラッチ、リバースを含め3個のブレーキバンド、1個のワンウェイクラッチ、そしてこれらへの油圧の供給をコントロールするバルブボディなどにより変速します。
では実際にどのギヤの時に何が働いているのかを以下に記しておきます。

1速 フォワードクラッチ、ワンウェイクラッチ
2速 フォワードクラッチ、2速ブレーキバンド
3速 フォワードクラッチ、3速ブレーキバンド
4速 フォワードクラッチ、T&Rクラッチ
リバース T&Rクラッチ、リバースブレーキバンド
(このうちワンウェイクラッチだけは油圧でコントロールされずに働きます。それ以外はバルブボディを介した油圧により作動します。) 


●ATのマニュアル変速

前述の2つの油圧クラッチと3つのブレーキバンドへの油圧供給をシフトレバーで変化させて変速します。

●ATのオートマチック変速
ATの変速はガバナという車速に比例する力、キックダウンリンケージを介して伝わるアクセルペダルを踏む力、この2つの力の押し合いによって決まります。急な上り坂でアクセルを強く踏んでいる時には充分加速するまで上のギヤに入らないようにします。下り坂ではアクセルの踏み込みが弱くても車速が上がり、直ぐに上のギヤに変速します。 

それではどのような時にATは傷むのでしょう?
基本的なパーツの問題を別にすると、2つの油圧クラッチと3つのブレーキバンドが消耗品になります。

2つのクラッチは油圧により押し付けられたクラッチプレートとプレッシャープレートの摩擦により出力を伝えます。そこで、空転状態から繋がる【半クラッチ】の時に摩耗するのが主です。この時は最初プレート同士の回転に差があるので擦れあって摩耗します。回転が一緒になって一体で回転すれば摩耗する理由は無くなります。

3つのブレーキバンドも似たような事で傷みます。
ブレーキバンドはケースに固定されたサーボという油圧ピストンの力でプラネタリーギヤユニットの回転を止めて変速します。
プラネタリーギヤユニットは車速によってはかなりのスピードで回転しています。
しかも鉄で出来たとても重いものです。
ドラムブレーキの逆のような構造のブレーキバンドは、変速する度にその回転が止まるまで擦り続けるという仕事をしています。
これによりブレーキバンドは確実に摩耗していきます。


この他にも故障の要素はあるのですが時間の経過、走行距離の増加とともに増えるのは油圧の低下です。
判り易いところではエンジンのオイルプレッシャーランプが消えるまでの時間があります。
ごく旧い押し掛け可能な車を除くと油圧はカムシャフト後端に取り付けられたオイルポンプで発生します。フィルターを通りバルブボディに入ったオイルはエンジン、トルクコンバーター、そしてAT に供給されていきます。前述のように油圧で作動する【2つのクラッチ】【3つのブレーキバンド】は、この油圧が低下すると滑りにつながります。そのためオイルプレッシャーのワーニングランプがエンジンを始動してから消灯するまでの間隔が長くなってきているような時は注意が必要です。
 

残念ながら他にもATの修理が必要になるような要素は少なくありません。しかしその多くはオーナーには如何ともしがたい事が多く、あまり気にし過ぎて乗るのが嫌になってしまわないようこのくらいにしておきましょう。

次回オートマの話【後編】ではシチュエーションに沿った有効なギア選択についてお話します。

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